福島地方裁判所 昭和45年(ワ)38号 判決 1972年2月10日
原告 七島千代
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 土屋芳雄
同 今泉圭二
右訴訟復代理人弁護士 大河内重男
被告 外山義男
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 江口保夫
同 宮田量司
同 本村俊学
同 古屋俊雄
主文
一 被告らは、原告七島千代に対し、各自金一二〇万一六〇三円およびこれに対する昭和四五年二月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告七島由行に対し、各自金一万八〇八〇円およびこれに対する昭和四五年二月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。
五 主文第一、二項にかぎり、かりに執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告ら
1 被告らは、原告七島千代(以下「原告千代」という)に対し、各自金二五〇万四六五六円およびこれに対する昭和四五年二月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告七島由行(以下「原告由行」という)に対し、各自金五〇万九五八〇円およびこれに対する昭和四五年二月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
二 被告ら
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 原告千代は、昭和四四年四月二三日午後八時四〇分ごろ、その三男である原告由行の運転する乗用自動車(以下「原告車」という)に同乗し、福島市五老内町六番二号先四号国道上その東側歩道にほぼ接着して停車していた際、被告外山義男(以下「被告外山」という)の運転する普通乗用車(以下「被告車」という)に追突された。
2(一) 右追突事故は被告外山の居眠り運転にもとづくものである。
(二) 被告細内昇(以下「被告細内」という)は、昭和四四年三月三一日トヨタオート東都株式会社から被告車を代金月賦払いで買い受け、使用しているものである。
3 原告千代の被った損害
(一) 原告千代は、右追突により頸部捻挫、右肱打撲、腰部捻挫、眼打撲の傷害を受け、事故当日である昭和四四年四月二三日から同年七月八日まで済生会病院で入院加療を受け、同月九日から同年九月一〇日まで同病院に毎日通院して加療を受けたが、同月一一日から同年一〇月一一日まで再度同病院に入院加療を受け、さらに、右受傷にもとづく身体衰弱から生じた右心臓および腎臓の障害により、同月一二日から信夫ヶ丘病院に入院加療を受け、かたわら一週間に一回ぐらいの割合で済生会病院に通院し加療を受けている。そして本件受傷により右上肢麻痺、頭痛、精神障害等の後遺障害(障害等級七級該当)がある。
(二) 原告千代の家族は夫七島保一、原告千代、七島康雄、同チエ子(康雄の妻)の四人であるが、農業を営み、畑一〇、一一五m2および田四〇九m2を耕作し、右保一が身体が丈夫でないため、原告千代が主体となって運営してきたのであり、原告千代はその労働により少なくとも一か月金一万五〇〇〇円の収益を得ていたが、本件受傷により労働不能となり、一か月金一万五〇〇〇円の損害を受けている。かりにそうでないとしても、全産業全企業女子労働者平均賃金は年間賞与その他の特別給与を含めて月額三万四九〇八円であり、原告千代の労働能力喪失率は少なくとも五六パーセントであるから、前記一万五〇〇〇円を下らぬ収益(34,908×0.56=19,548)を失っている。そして原告千代はなお一〇年間可能であったから、同期間の損害額につきホフマン式計算法により中間利息を控除すると、その現在額は金一四三万〇〇九〇円となる。
(三) 原告千代は本件受傷により甚大な精神的苦痛を被ったから、その治療期間および後遺障害を通じて、これに対する慰謝料は金二六四万円が相当である。
(四) 入院付添看護料 金三万円(一日につき金一〇〇〇円で三〇日分)
(五) 原告千代は自動車損害賠償責任保険金一五九万五四三四円を受領したから、これを前記損害額から控除する。
4 原告由行の被った損害
(一) 原告由行は、右追突により頸部捻挫の傷害を受け、事故当日である昭和四四年四月二三日から四か月間済生会病院に通院して加療を受けたが、後遺障害として現在でも鍋をかぶったような不快感がある。
(二) 原告由行は、七島クリーニング店に勤務し、給与月額金三万〇五〇〇円の支給を受けていたが、本件受傷により三か月間休業せざるを得なかったので、金九万一五〇〇円の給与を受けることができず、右相当額の損害を被った。
(三) 原告由行は本件受傷により精神的苦痛を被ったから、その治療期間および後遺障害を通じて、これに対する慰謝料は金五〇万円が相当である。
(四) 原告由行は自動車損害賠償責任保険金八万一九二〇円を受領したから、これを前記損害額から控除する。
5 よって、被告らに対し、原告千代は、右損害賠償金二五〇万四六五六円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年二月一〇日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを、原告由行は、右損害賠償金五〇万九五八〇円およびこれに対する同じく前同日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを、それぞれ求める。
二 請求原因に対する被告らの答弁
1 請求原因1の事実を認める。
2 (一)(被告外山)同2(一)の事実を認める。
(二)(被告細内)同2(二)の事実を否認する。
3 同34の事実は不知。
第三証拠関係≪省略≫
理由
一 請求原因1の事実(本件事故の発生)および同2(一)の事実(被告外山の過失)は当事者間に争いがない。
二 そこで被告細内の責任について判断する。
≪証拠省略≫を総合すると、つぎの事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫
1 被告外山は昭和二四年一〇月二四日生で、兄は別居し、同被告が主体となり母フクとともに約一町歩の農地を耕作し、農閑期には親戚の外山工業に勤務し、農業収入は年収約二〇万円で、給与収入は約一五万円であり、同居家族は五名であって、生活は苦しい。
2 被告細内は、被告外山の姉みつ江の夫であり、自動車運転手を業とし、小型トラック一台を所有していた。
3 昭和四四年三月ごろ、被告外山が乗用車をほしがったので、被告細内は、同月三一日トヨタオート東都株式会社から被告車を買い受け、右みつ江が連帯保証人となり、右代金を月賦で支払うこととし、同会社に対し被告細内がいわゆるマル専手形を支払いのため振り出した。被告車は、使用者は被告細内名義となっており、使用の本拠も同被告の住所地となっている。被告車はもっぱら被告外山の通勤およびレジャー用に使用されている。
4 右事実によれば、被告車は被告外山がその家業である農業に定着させるとの少なくとも被告細内夫妻の意図から、未成年者であって、かつ経済的能力の乏しい被告外山に使用させているものと推認され、これと前認定の事実関係からすると、社会通念上被告細内が被告外山の運行に対して支配を及ぼすことができ、かつ支配管理すべき責務があるというべきであり、自動車損害賠償保障法第三条の立法趣旨が危険責任にもとづくものとみるのが相当であるから、被告細内は被告車の運行供用者にあたるものといわなければならない。
三 つぎに原告らの被った損害について順次検討する。
1 原告千代の被った損害
(一) ≪証拠省略≫によれば、原告千代は本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、事故当日である昭和四四年四月二三日から同年七月八日まで済生会病院で入院加療を受け、同月九日から同年九月一〇日まで同病院に通院して加療を受け(治療実日数二一日)、同月一一日から同年一〇月三日まで同病院に再度入院加療を受け、その後昭和四五年一〇月一日まで同病院に通院して加療を受け(治療実日数二一日)、症状ほぼ固定し、後遺障害として頸椎の運動制限、異常脳波、記銘減弱、感情失禁、抑うつ気分等の精神症状があり、自覚症状として頭痛、頸部痛があり、労働者災害補償保険障害等級七級に該当することが認められ(る。)≪証拠判断省略≫
(二) ≪証拠省略≫によれば、原告千代は大正二年一一月一三日生で、その家族は、原告千代のほか夫七島保一、長男同康雄、その妻同チエ子の四人で、桃畑五反、りんご畑二反五畝、野菜三反五畝を耕作していたが、康雄夫婦がほとんど耕作をせず、原告千代夫婦だけでやっていたが、原告千代は健康で男まさりの仕事をしていたこと、本件受傷により農耕には従事できなくなり、家事、子守りを手伝っているにすぎないことが認められる。そして昭和四四年厚生省第一二回生命表によれば平均余命は二一・七年を下らないから、原告千代は少くともなお八年間は労働可能であり、昭和四四年賃金センサス中途採用者の初任賃金女子小学・新中卒の五〇才以上の給与月額は二万一四〇〇円であるが、前認定の原告千代の事故当時の稼働ぶりからすれば、優にこの程度の収益をあげることができると認められるところ、後遺障害等級七級の労働能力喪失率は五六パーセントとされているから、特別の事情の認められない本件においてはこれを採るのが相当であるから、右期日のうべかりし利益につきホフマン式計算法により中間利息を控除すると、その現在額は金九六万七〇三七円(21,400×0.56×80.6106)となる。
(三) 原告千代が本件受傷により精神的肉体的苦痛を被ったことは明らかであり、その精神的損害に対する慰謝料額は、本件事故の態様、本件受傷の程度(後遺障害を含め)、その他本件に現われた一切の事情を考慮すると、金一八〇万円が相当である。
(四) ≪証拠省略≫によれば、原告千代が済生会病院に第一回目の入院をした際、三〇日間付添看護を要し、同原告が付添看護した小沼チイ子に対し金三万円を支払ったことが認められ、これに反する証拠はない。
(五) 原告千代が自動車損害賠償責任保険金一五九万五四三四円を受領したことは同原告の自認するところであるから、これを前記損害額から控除すべきである。
2 原告由行の被った損害
(一) ≪証拠省略≫を総合すると、原告由行は本件事故により頸椎むち打損傷の傷害を受け、済生会病院に事故当日の昭和四四年四月二三日から約四か月継続して通院して加療を受け(治療実日数一七日くらい)、当初頸椎固定用カラーを装着し、投薬により経過を観察し、同年六月三〇日には特記すべき他覚症状は認められず、軽い頭重感を訴える程度に軽快したものの、その後時折通院し、同年一一月一七日には頑固な頭部痛を訴え、昭和四五年一月二四日まで通院し、同日現在でなお三か月の通院加療を要する見込みであったことが認められる。
(二) そこで休業にもとづく逸失利益にかかる原告由行の主張について考えてみると、原告七島由行本人尋問の結果中には、三か月間休業せざるをえなかった旨の供述部分があるが、同原告の他の供述部分および(一)に認定した事実に照したやすく措信し難く、他に右主張を肯認するに足りる証拠はなく、その余の点を判断するまでもなく、休業にもとづく逸失利益の存在は推認できるが、その額は確定し難い。
(三) 原告由行が本件受傷により精神的肉体的苦痛を被ったことは明らかであり、その精神的損害に対する慰謝料額は、本件事故の態様、本件受傷の程度、逸失利益の存在は推認することができるがその額が確定し難い事情、その他本件に現われた一切の事情を考慮すると、金一〇万円が相当である。
(四) 原告由行が自動車損害賠償責任保険金八万一九二〇円を受領したことは同原告の自認するところであるから、これを前記損害額から控除すべきである。
四 以上の次第により、被告らは、連帯して、原告千代に対し右損害賠償金一二〇万一六〇三円およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四五年二月一〇日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、原告由行に対し右損害賠償金一万八〇八〇円およびこれに対する同じく前同日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払うべき義務あるものというべく、原告らの本訴請求は右の限度において理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 丹野達)